定年5

  23, 2017 07:04
「余です」
 白髪の混じった髭を生やしている。事務所は小石川の雑居ビルにある。思ったより狭い。
「よく整理されてるな?」
 1時間じっくり読んで女性に紙ベースに起こさせている。それから携帯を掛ける。
「関東の武闘派の組長の件だが進捗はどう?」
 20分ほど話しているが牙には分からない。
「起訴猶予になる可能性があるな。その西成署の刑事のことも有名だ。警視庁内では意見が二つに分かれている。彼を逮捕することはないだろう」
「幾らかかります?」
 牙は100万を鞄に入れてきている。
「私からの提案だが、これは確かにその刑事が言うように警視庁に問題があるね?この手の問題は難しいのさ。だからマスコミを使う。その資料提供料で十分だよ」
 牙は資料を預けて外に出てタクシーに乗る。東京支社に着いた。
「お待ちしていました」
 支社長が立ち上がって迎える。来るのを知らされていたからすぐに東京の幻の地下商店街のシステムの説明をする。
「店舗数が300店を予想しています。大阪の実績が営業のやり易い形になっています。だが問題は制作は大阪本社なのでどうしても時差トラブルが多いのです。それでシステムを作ろうと提案しています」
「社長には?」
「どうもゲームソフトにかかりきりのようなのです」
 どうしても社長は職人で全体が見れないのだ。
「でもあのYOUって可愛いですね?」
 そう言えば入口の壁にYOUの写真が貼ってある。
「あれは東京で撮ったソフトの箱の写真なのです」
 娘だとも言えない。

















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定年4

  22, 2017 06:52
「茂さん、どうしたら?」
と言いながらすでに東京に行く気で鞄を持っている。茂さんはライトバンに牙を乗せて新大阪駅に向かう。牙はもう一つ作ったUSBのコピーを渡している。
「実はなあ。誰にも話したことがないが、若い頃警察の鑑識にいたのだ。その時押収物のわいせつビデオを流して解雇されている。それが縁でこの道に入った」
 人にはいろいろな過去があるのだ。
「元々は東京の警察にいた。しばらく解雇になってぶらぶらしていた時に退職していた先輩の探偵事務所に2年ほど厄介になった」
と名刺をポケットから出す。
「今でも仕事が来ている。まず彼に話すといい。こちらから連絡を入れておく。それとこの画像をもう少し分析をしておくさ。だが気を付けろよ。関東の武闘派の組長はやくざい界を統一する男と言われている。あの殺されたミナミの組長が唯一の壁だったのだ。それで武闘派だった戎会の組長を使ったのだ」
 話しているうちに新大阪駅に着いた。牙は切符を買うと新幹線の自由席に飛び乗る。
「YOUしばらく東京に行く」
とメールを打つ。YOUは今日博多から戻ってくる予定だったのだ。鞄からパソコンを出してきて今までまとめて来たこの事件の経緯を整理する。それから警察に提出するものと探偵に見せるものに分けた。
「東京に行くそうですね?・・・」
 社長からだ。彼にはメールを入れて置いた。
「東京支社を覗いてやってください。相談があるようです。それとYOUさんのドラマの撮影が始まりました」
 もう二人は付き合っているのだろう。どんどん話が進んでいる。恋人ができた父親の気持ちよりもっと切ない。
「ゴンさんと連絡が付きました。どうも関東の武闘派組長が証拠不十分で釈放されるようです。始末書を書けば不問にと言われているそうですが拒絶しているそうです。牙さんが東京に向かっていると伝えました」
 相棒は若いからメールを使える。
「もう少し頑張ってほしいと伝えてくれ」



 





定年3

  21, 2017 07:14
 まだあまり長い時間パソコンを打つのは無理なようだ。首を固定しているので頭痛がする。それでジャンバーを着て飯屋に行く。ビールを頼んでぼんやりテレビを見ている。この時間帯でもYOU達のコマーシャルが流れているのだ。2杯目を注いで口に運ぶ。なんだ?拘置所で毒を飲んで自殺した?これは稚内のヒットマンだ。
 ゴンさんの携帯を呼び出す。だが電源が切れている。
「牙さんだね?」
 坊主頭のゴンさんの相棒だ。
「ゴンさんはまだ東京?」
「それが大変なことになっているのです」
「座ってゆっくり話してくれ?上を向いていると辛いのだ」
「はい。でもこれは極秘ですからね?2日前にゴンさんから携帯を貰ったのです。あのUSBが警視庁でなくなったのです。それでゴンさんが抗議して手を出したらしく軟禁されたようです。その時に私に連絡があったのです」
「それで?」
「警視庁の中に関東の武闘派の組長と繋がっている上層部がいると。ひょっとしたらヒットマンも危ないと言っていました。それで牙に伝えてくれと?」
「でもなぜ今頃?」
「西成署でも口封じされているのです。それで私も・・・。それがヒットマンが殺されて」
 急に泣き出した。何という相棒だ。
 牙は慌てて部屋に戻ってパソコンの中を調べる。あのUSBをどうしたのか。牙は昔から必ずバックアップを取る癖があった。あった。完璧に残っている。もう一度確認して今度は新しいUSBに入れる。だがどうするかだ。ゴンさんは警視庁の上層部に関東の武闘派と繋がっているものがいると言っている。
 これを下手に届けてもまた握りつぶされるだろう。どうするか。





定年2

  20, 2017 06:48
 今日はメインバンクの審査部長が来ると社長からスマホが入った。それで久しぶりにスーツにコートを着て会社に入った。これは会社のM&Aの資金を申し込んでいる。必要な書類を届け今回審査部長が顧問にも会いたいと申し出があったのだ。大池のグループ会社のゲームソフトの会社を買うことにしたのだ。今ここが弱体しているのだ。
 今回の幻の地下商店街でファイナンスの借り入れを20億返済している。
「返済計画ですが?・・・」
と課長の質問と社長の回答が2時間ほど続く。牙はコーヒーを飲みながら審査部長と話している。部長の顔を見たら決裁は決まっている。30億だが問題はないようだ。
「顧問は取締役には?」
「いえ、あくまでも補佐です。一度会社を飛ばした罪人ですからね?」
 このことは部長しか知らない。
「幻の地下商店街はあの頃飲んだ時に聞いていて楽しみにしていたのですよ」
「そうですね?よく飲みましたね?」
 あの頃は大阪の支店長だった。起業塾で意気投合して終わってから何軒もはしごしていたのだ。
「頭取を目指しています?」
「もちろんです。もうすぐ専務に上がりますよ。顧問は?」
「幻のシリーズが済んだら引退ですよ。どこか山小屋でも建てて籠ろうかなと?」
 これは本気だ。YOUとの生活もそう長く続かないと思っている。
 その後社長と珍しく2人でワインを飲む。
「時々YOUと食事を?」
「はい」
 彼はYOUが本当に娘だと思っている。
「でも誘っても断られてばかりです。忙しいからですね?今度はYOUさんをドラマに出てみたらと交渉しているのです」
 社長は愛していると体で表現している。
「これは合併後の第1弾のゲームソフトをドラマにする予定なのです」
と台本を渡される。










定年1

  19, 2017 06:51
 ゴンさんは西成署にうさぎの人形の中のUSBを持ち込んだ。牙は癖でそのUSBのコピーを撮ってゴンさんに渡した。それから連絡が取れない。牙は通院で天王寺の病院に通っている。YOUは休んだ埋め合わせで博多に飛んでいる。あのヒットマンも東京に護送された。
「どうだ体は?」
「もう歩けるよ。ゴンさんはどうしてるのです?」
「今警視庁にいる。あのUSBを持って来た。これを手に入れる経過を丸1日かかって調書にされた。此奴らは官僚だ。だがようやく関東の武闘派の組長に逮捕状を出したさ」
「凄いな。引退の花道が出来ましたね?」
 そこで声がして切れた。牙はまとめた吸収合併の条件と資金手当てをメールにして社長に送って歩いて病院に行く。兄貴は無事にサハリンに行ったのだろうか。このことは警察には伏せることでゴンさんと約束している。
 病院帰りに飯屋の暖簾を久しぶりに潜る。師匠がコップ酒を飲んでいる。
「当たり屋をやったのか?」
「まさか?今日は?」
「拘置所の教習の日じゃよ。新しい弟子が出来たさ」
と言えば隣に20歳代の坊主頭の男がコップ酒を飲んでいる。
「此奴はこそ泥だ。だが前科は3犯だ」
 男は頭を掻いている。
「こちらが1番弟子や。今はネット詐欺や」
「人聞きの悪い」
「それとあの写真の女性は有名なYOUさんですね?お父さんですか?」
「いや・・・」








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